梅干し、梅酒、梅ジュース、梅ジャムと様々な形で食される梅。花も美しく実もおいしい梅は、5月ごろからたわわに実り、初夏の訪れを告げます。梅シロップや梅酒を作るのが毎年の楽しみという方も多いでしょう。
梅の栽培が日本一の和歌山は、その種類も豊富。また品種によって食べ方や加工の仕方もさまざまです。今回はお待ちかね、和歌山の梅に詳しくなれる、梅づくしの情報をお届けします!

梅の生産量が全国第一位の和歌山県

梅は和歌山の特産物のひとつ。なんと、全国の梅の収穫量のうち約6割を和歌山産が占めているんです!国内の収穫量の約6割というのは青森県のりんご収穫量とほぼ同じ。和歌山はみかん王国でありながら、梅王国でもあるんです。(※令和元年特産果樹生産動態等調査)

和歌山が梅王国である理由はその気候。梅は温暖な気候を好みます。梅の生産が多く行われている和歌山県中部・南部は年間を通しての気温差が小さく温暖なことと、水はけのよい土壌条件にめぐまれていて、梅の栽培にぴったり!梅王国を牽引するみなべ町や田辺市も和歌山県中部・南部に位置しています。

和歌山で収穫される梅のほとんどは南高梅。もちろん名前は聞いたことありますよね!黒潮の影響で温暖な気候、長い日照時間、そして程よい雨量という気候的な条件に加え、農家の方々の弛まぬ努力が最高品質の紀州南高梅を育てているのです。

和歌山で梅が有名になるまでの歴史

紀州とは和歌山県と三重県の一部を含む地域の昔の呼び名です。地名をいただく最高品質の梅には、世界に誇れる歴史が隠されています。和歌山の梅の物語に少し触れてみましょう。

時は今から400年前の江戸時代初期。現在の田辺市とみなべ町にあたる田辺領は、決して土壌の良い恵まれた土地ではありませんでした。
石ころが多く荒れた土地を耕し、梅の栽培をするように推奨したのは領主の安藤直次。長く徳川家康に仕え、紀州藩付きの家老として所領を与えられていたとても有能な武士でした。
安藤直次は年貢に苦しんでいた農民を助けるため、梅の栽培を推奨しひろまったとされています。

田辺市やみなべ町の梅の多くは、山の斜面で育てられています。林の間に梅が育てられるのにもはっきりとした理由があるんですよ。
梅の木の周りにあるのは、元々あったウバメガシなどの薪炭林。薪炭林を残すことで崩落を防止し、また水の確保にもつながります。さらに薪炭林に住むニホンミツバチに梅の受粉を手伝ってもらうという自然の力とサイクルを利用した素晴らしいシステムが確立されているのが和歌山の梅生産の特徴!このシステムは「みなべ・田辺の梅システム」として世界農業遺産に認定されています。

和歌山で収穫できる主な梅の種類と旬の時期

和歌山ではたくさんの種類の梅が育てられています。実が大きいもの、柔らかいもの、果皮が薄いもの、香りが強いもの、また用途も梅干し用、シロップ・梅酒用などそれぞれ特徴が異なります。和歌山で栽培される梅の代表的な品種をご紹介します。

南高

まずはみなべ町生まれの最高品種「南高梅」です。和歌山を代表する特産品、南高梅の特徴は肉厚な果肉とその柔らかさ!とろけるような柔らかな実になる秘密は、自然に落下するのを待つからなんですよ。よーく熟した実だからこそ、風味も豊かで柔らかくなるんです。完熟前の青梅はシロップや梅酒に、薫り高い完熟梅の旬は6月から7月頃で、梅干しはもちろん、シロップ、梅酒などにも適しています。

古城(ごじろ)

「青いダイヤモンド」と呼ばれる「古城梅」。鮮やかな緑色の大きな梅で、南高梅に比べるとしっかりとした固い実が特徴です。
古城梅も和歌山で生まれた品種ですが、生産者の数が多くないためとても珍しい品種として知られています。立派で固めの果実は梅干しには向きませんが、梅酒やジュースなどに最適で、酒屋さんに卸されることも多いのだとか。5月中旬頃、南高梅より早く出まります。

ミスなでしこ

緑色のイメージがある梅ですが、中には異なる色の品種も存在します。希少種である「ミスなでしこ」もそのひとつ。まるでぶどうのような深い紫色の果実が特徴です。南高梅と紅紫色の美しいパープルクイーン(類似種)のかけ合わせのミスなでしこは、2005年に田辺市の三栖(みす)地区で誕生した比較的若い品種です。田辺市内でも一部の農家さんしか栽培を手掛けておらず、非常に希少な梅なんですよ。
ミスなでしこはその色を生かしてシロップや梅酒、ジャムにするのがおすすめ。シロップや梅酒にすると淡いピンク色に仕上がり、ジャムにすると紫色に仕上がります。

パープルクイーン

この品種も田辺市で生まれました。
その名の通り紅紫色の小梅です。JA紀南管内のみで栽培されており、こちらもほとんど市場に出回らないことから幻の梅とも呼ばれています。
赤紫色の果皮を持ち、南高梅に比べると小粒なのが特徴。小さな果実の果皮にはアントシアニンが含まれており、ジュースやシロップにすると、ロゼワインのような鮮やかな美しい紅紫色を楽しめますよ。

露茜(つゆあかね)

養青梅とスモモを掛け合わせて、2009年に誕生したのが露茜です。スモモの特徴を受け継ぐ露茜は、独特の風味ときれいな赤色の果肉を持つ品種です。
南高梅よりひとまわり大きくなる果実は、皮だけでなく中の果肉も真っ赤!種も小さく、肉厚な果肉を持っています。梅ジュースや梅酒にするのがおすすめ。また美しく鮮やかな梅酒はお祝いごとのプレゼントなどにもぴったりです。
南高梅より酸味が少ないため、すっぱいのがニガテな人にもおススメ。

用途によって収穫時期が変わる

日本人の食卓に欠かせない梅の実は、初夏の季語として昔から多くの俳句に登場しています。熟し具合で色の変わる実は、微妙な季節の移り変わりを表現する俳句の世界においてとても重宝されてきました。

梅の収穫時期は5月から7月にかけて。熟し具合によって色だけでなく果実の硬さや風味も変わるため、加工の方法も変わります。梅はスモモや杏の仲間の果実ですが、生食には向いていません。

5月から6月にかけての青梅は梅酒や梅シロップ、甘露漬けや醤油漬けなどじっくり時間をかけて漬け込む食品に向いています。
完熟した梅は実が柔らかくなるので、果肉自体の味や触感を楽しめるジャムや梅干しにするのがおすすめ!作りたいものに合わせて、梅の熟し具合をチェックするようにしましょう。

カラダに嬉しい梅の効果

梅には健康に良い栄養素もたくさん含まれています。その昔、戦場へ向かう侍たちは手軽に栄養が摂取できる梅干しを必ず持って行ったのだとか。手軽に食べられて栄養が取れ、その上保存も効く梅干しは陣中食としてぴったりだったに違いありません。

梅には疲労回復などに効果のあるクエン酸がたっぷり。その他、リンゴ酸、コハク酸などの有機酸も含まれています。有機酸は栄養素をエネルギーに変える手助けをするので、疲労回復には欠かせません。また、梅干しを食べることで食欲が増進し唾液の分泌量も増えるため、粘膜の保護や殺菌にも効果があります。カリウムやマグネシウムなどのミネラルも豊富に含んでおり、美容のためにも、健康維持のためにも取り入れたい品種です。疲れた体を癒やし、細菌からも守ってくれる梅は毎日取り入れたい食品です。


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